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この街の吹雪はもう、3年も続いている。

晩秋、木枯らし1号が観測された翌日に降雪し、近くの競技場は白に消えた。

沢は凍てつき、風音は轟々とうねり、はしゃいでいた子供たちも、庭を駆け回っていた犬たちもすっかり引きこもった。

買い物は自動配達ドローン、遊びはVRでデジタルワールド。

市外に疎開する人がほとんどで、街はみるみる活気を失っていた。

私がこの街に残る意味や想いはないのだけど、移住する意味や想いもなかったので1LDKで完結するこの世界を甘んじて生活している。

内にいることが増えたので、情報だけはむしろ吹雪前よりも入ってくるようになった。

なぜ1つの街だけ異常気象が続くのか、アメリカの気象兵器実験だ、神の天罰だ、と情報は吹雪のように荒れ、錯綜していたが、テレビやYouTuberが騒ぐには3年という期間は骨太で、災害が続きながらも

「あれから3年」なんて言われ方をするほどに、窓の外の世界と液晶の中の世界は離れていた。

世間の同情は不要だけど公の支援は必要。今日も私は窓の外の風景を液晶の中へ呟く。

「今日の気温は-3℃。相変わらず、一寸先はホワイトアウト。」

3分後、Twitterのタイムラインを更新するといいねが1件。そろそろ仕事を始めないとと思い、スマホを置いてPCを開いてPhotoshopを立ち上げる。

起動するまでにもう1度Twitterのタイムラインを更新する・いいねの数は変わらず1件。フォロワー数1万人超えのインフルエンサーが書籍の出版をしたとツイートしていたので「おめでとうございます!絶対買います!」とリプしておいた。

今つくっているのは新しくできるコワーキングスペースのチラシ。クライアントは学生の頃にたまたま繋がりができたIT系の企業で、99%の案件はそこからもらっている、私の命綱。かれこれ3年ほどの付き合いになるのだけど、来年春には社内体制の変更に伴い契約解除となることが告げられている。

なので早くこのチラシを完成させて、新しい仕事を探さないといけない。

そう思いながらじっとディスプレイを見つめ、1時間ほど写真を変えたり、フォントを太くしたりするもなかなかしっくりこない。こういう時は一旦休んで取り掛かったほうがいい、Macをスリープさせ私もベッドに寝転んだ。 

Twitterを開くといいねが3件に増えていて、注文したコーヒーにチョコレートが添えられているくらいの微かな喜びを感じた。

Facebookを覗くと、結婚したとか、テレビに出ましたとか、飲み会が楽しかったとか、幸福が多角的に殴ってくるので、私はもうガードができずスマホを閉じて、目も閉じた。「このまま眠ってしまおうかな、いやでも仕事やらなくちゃ、、」と頭を巡らすうちにうとうととしてきて、夢をみた。 

私は大きな古民家の中にいて、ものすごく速くて、力の強い、小太りの少年のような生き物に追われていた。捕まったら死ぬらしくて、それはもう必死で逃げていたのだが行き止まりに突き当たり、万事休す。小太りの少年の脇を走り抜けて逃げようとするも、腕を掴まれ、ものすごい力で腕を握りつぶされたところで目が覚める。

「嫌な夢を見た、、」と軽い目眩がする中とりあえずスマホを見ると、いくつかのメッセージやリプが届いていて、でもそれらを返すのが非常に億劫でメッセージは開かずにしておいた。  

身体もどこか火照っている気がする。どうにか気分を覚ましたい、どこか別の街にでも移動してみようと、駅に向かう身支度を整えて私は玄関のドアを開けた。

ビュンビュン雪は頬を殴り、3分も歩くと鼻腔がじわじわ痛みを感じていく。目線の先には何もない、白い世界だけが存在している。でも今は、なんとなくこの痛みや冷たさがちょうどいい気がして、身体が受け取る感覚を丁寧に感じてみていた。 

いくつか遠回りをしながら1時間ほど歩いただろうか、指先の感覚もなくなってきた頃、真っ白な世界にぼんやり光る入り口のようなものが見えた。 

近づいてみるとそこは確かに入り口で、引き戸を両手でスライドすると大きな白い壁ににじり口がついていた。壁の説明書きを読むとどうやら飲食店のようだったので、お腹も空いていたからにじり口を潜り、中に入ってみた。 

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お察しの通り、これは「逃げBar White Out」の物語。 

他のフェスと同じようにWhite Outも、現実の営業と仮想現実の物語をクロスオーバーさせながら、共創していこうと思います。 

今はまだ、入り口まで。  ここから先、どんなお客さんが来て  どんな出来事が起こるかに応じて、物語も変化していきます。


お楽しみに。

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